おとしもの

頭の中のものをぜんぶ形に出来たらいいなぁ

読み物「タネ」

ある村に内向的で心の優しき少年がいました。

人と話すのが得意ではないので、彼のことをよく知る人物はほんの一握りしかいません。

そんな彼には村で一番背の高い友人がいました。

友人は背が高いことから、高い屋根の修理や木の手入れを仕事にして、みんなから愛されていました。

少年はそんな友人を尊敬し、みんなに頼られる友人の助けになりたいと思っていました。

 

そんな時、村に見慣れない男がやってきた。

男「私は珍しい種を売って、その村のシンボルにするのが好きなのです。どうかおひとつ買っていただけないだろうか」

 

その男が提示してきた金額は、決して安いと言えるものではありませんでした。

すると男はスケッチブックを取り出しました。

男「信じてもらえるかわかりませんが、私が以前売ってきた種の姿です」

そのスケッチブックではさまざまな色をしたリンゴが木になっていた。

するとそれを見た1人の女が

女「 私この木知ってる。近くに流れる川の向こうの村の隣の隣のそのまた隣の村で見たわ。一昨日のことだから覚えているの。間違いなくそれだわ」

興奮気味の女の声はやがて落ち着いた。

女「喋りすぎたからかしら、すごく喉が渇いたわ」

女はその場を走って去って言った。

入れ替わるように村長が出てきてこう言った。

村長「私たちの村には誇れるものがない。それを知っていてここにきたと言うなら、私はそれを買おう」

男「失礼ながら、そのような村を回っていますので、知っていますよ」

周りは釈然としないままに村長と男は握手を交わし、種を受け取った。

 

しかしながら、村の人たちは植物を育てたことがありません。

誰もが嫌がって、木の面倒を見ようとしません。

村長は困って、少年の方を見た。

皆、少年を見て、やがて種は少年の手に渡された。

 

1日目

土に水をやる。

古い本に習いながら、初めて植物を育てる少年は、自分が何をしているのかよくわからなかった。

10日目

芽がなかなか出てこず、周りもタネを疑い始めました。

次第に馬鹿にしにくる子らも現れました。

本の通りにやっている少年は、ただただ不安になりました。

20日目

根気よく水をやる少年に、背の高い友人がついに声をかけました。

友人「もうやめなよ。みんな村長が悪いんだ。あの男にまんまと騙された」

少年は首を横に降る。

友人「あの騒いでいた女もいつのまにかどこかに居なくなってしまった。きっと仲間だったんだ」

30日目

馬鹿にする子らも飽き、誰も様子を見にきてくれなくなり、諦めかけた日の朝、ついに芽が出ました。

あまりの嬉しさに、少年は涙を流しました。

翌日

朝、少年が水をやりに行こうとしたら、そこには人々が集まっていました。

少年はその理由がすぐにわかりました。

集まる人々よりも高いところに葉があるのです。

木のそばまで少年が来ると

村人「いつの間にこんなに大きくなったんだ?ついこの間まではただの平地だったろう」

少年は正直に話しました。

しかし村人は誰も信じてくれませんでした。

村人「きっとこいつはこの木を独り占めするためにうまく隠していたんだ」

少年は糾弾されました。

ついには木を育てる係から外され、村ののけ者にされてしまいました。

代わりに係になったのは、背の高い友人でした。

背の高い彼なら、高い葉にも手が届くからです。

 

さらに10日後

木はどんどん大きくなっていきました。

その木の名前を村人は誰も知りませんでした。

それでも村人は、日に日に大きくなる木を時々眺めにくるようになりました。

少年はそこに入れてもらえません。

 

そのまた10日後

木の葉は誰の手にも届かない高さになりました。

村の一番大きな家の屋根と同じくらいの高さです。

背の高い彼も手が届かなくなってきました。

それでもその木は育ち、綺麗な紫の花を咲かせました。

その花を手に取ろうと、人々は集まり、木にハシゴを立てました。

少年は遠くの家から木を見ていました。

 

次の日、木はついにてっぺんが見えなくなりました。

ハシゴを立てても花にたどり着けません。

それを見た少年は、村人のために灯りもない夜に木箱を運んでは積み上げて、階段を使っていきました。

 

ある日、積み上げられた木箱に気が付いた1人の村人が

村人「階段を作れば花に届くじゃないか」

すぐに村人たちは一丸となり、あっという間に木の周りをぐるぐると覆う階段が出来てきました。

すると突然、和気藹々と集まる人々をかき分けて、1人の男がやってきました。
男「助けてくれ!!!もう喉もカラカラだ!いくら水を飲んでも喉が乾くんだ!!」
必死に村人にしがみつく男。
村人「こいつは俺たちの村をほったらかして、虹色のリンゴがなる木を見に行ったんだ。俺たちはこんなにも頑張っているのに」
そう冷たく言うと、村人たちは男を足蹴にしました。
やがて、力をなくし、動かなくなりました。

 

ついに雲に届く目前まで迎えたある日、空から花が降ってきました。

綺麗な紫の花。

村人たちは大喜びで完成へと力を振り絞りました。

 

翌朝、次は木の枝が落ちてきました。

それを不審に思った村人は木のふもとから木を見上げました。

するとボロボロと木や葉や花が落ちてきました。

そのどれもが枯れかけていて、綺麗とは程遠いものです。

村人たちは慌てふためきました。

するとある村人が

村人「きっと上で階段を作っている奴らの仕業だ」

村人の1人は階段を蹴り上がりました。

他の村人たちはしばらくふもとで待っていました。

村人「うわああ」

空からさっき登っていった村人が落っこちてきました。

そのまま地面に落ちて、動かなくなりました。

それを追うようにして、階段の組み立て係が数人降りてきました。

組み立て係「大丈夫か!!」

落ちた村人の元へ行こうとするが、周りの人たちに止められる。

村人「お前らが落としたんだろう。この木の今の姿を見せたくなかったから」

驚く組み立て係達たち。

組み立て係「違うんだ!聞いてくれ!てっぺんまで階段を作ったが、木が枯れているんだ!みんな何故か知らないか!?」

村人「この期に及んでまだ言い逃れをしようとするのか!!」

村人たちに責め立てられ、ついには組み立て係達は捕らえられてしまいました。

それが済むと、次々と村人たちは木の様子を見に階段を上って行きました。

登っている途中にもボロボロと枯れた枝や花や葉が落ちてくるのです。

焦る村人たちは階段を駆け上りました。

しかし、村人たちは絶望しました。

雲までかかっていた木のてっぺんが、すぐそこまで来ているのです。

どんどん崩れていき、その破片は村の家々に降ってきました。

村娘「きゃー!」

木の下敷きになり、動かなくなる村人や、木が刺さって苦しんでいる村人。

一目見ようと集まっただけに、たくさんの人の悲鳴やうめき声で溢れかえりました。

ついには木は倒れ、村のほとんどの家を壊しました。

 

少年はその大きな音に気がつき、村の中心まで走りました。

たどり着いた頃には、動いている人はほとんどいませんでした。

あたりを見渡していると、突然足を掴まれました。

友人「お前のせいだ。お前がこんなに木を育てていなければよかったんだ」

少年は後ずさりをしました。

そこへ屋根に引っかかっていた一本の枝が友人の頭に刺さり、少年の足を掴む手の力がなくなりました。

呆然と立ち尽くしていると、見計らったようにタネを売ってきた男がやってきました。

男「どんな風に育っているかと思えば、なんだいこの惨状は。本当にあの村かい」

あたりを見渡す男の元へ、村長を含めた何人かの人が集まってきた。

村長「こちらが聞きたい。木を育てていただけだ。みろ、ここにちゃんと花があるだろう」

枯れた花を取り出す村長に、男は手を打つ。

男「そうか、フジの木の種だったんだね。それにしちゃあ随分と花が多いじゃないか。立派に育てたんだね」

村長「立派も何も、雲を突き抜けたわい。なのに花を見に行こうと階段を作っている途中に崩れ落ちてこのざまだ」

男は階段を見てくすくすと笑った。

男「フジはね、根からとても優しい木なんだ。だから根元を踏んだり、花をむしったりしたらすぐに弱ってしまうんだよ」

村長は怒りを隠せませんでした。

そのまま男を突き飛ばしました。

男「いたいよ。僕があなたに何をしたんですか。あなたは傷一つ付いていないではありませんか」

村長「黙れ。お前には何が何でも責任を取ってもらうぞ」

男「責任も何も」

男は続けて得意げにこう言ったのです。

男「自分で撒いたタネじゃないですか」

その言葉とともに、崩れ落ちた木のクズ達が村長達を襲いました。

少年はその瞬間をただただ見ていました。

男「君も傷一つないね。どうだい、僕のスケッチ中の話し相手になってくれないか」

そう言って男はスケッチブックを取り出した。

男「君はこの木を育てたのかい」

少年は首を横に振る。

男は絵を描き続けている。

男「そうなんだ。でもこの木は君によく似ているよ」

男の手が止まる。

男「できた!」

少年はその絵を見て、青ざめました。

男のスケッチブックには雲まで突き抜けて、綺麗な花を咲かせたフジの木が描かれていました。

 

 

 

おわり

 

 

 

お疲れ様でした。

よくぞここまで読んでくれました。

長い上にまとまりがないような気がします。

あまり見直してもないので、誤字脱字がありそうですし、途中から結構走って書いてしまいました。

いつか修正します。

 

↑ちょっと修正しました↑

 

さて、ちょっと昔話風に作っていましたが、おわかりいただけたでしょうか。

ただやっぱり難しいなぁと感じましたね。

登場人物の口調とか、雰囲気に統一感が出せたか不安です。

それでもここまで読んでくれたと言うのは、きっとこの話が少しでも理解できるものだったんだと思っておきます。

本当にありがとうございました。

今後も時々読み物を落としていきますので、よろしくお願いします。

 

それではまた。

 

 

由良